インラインとスキーの違いのウソ

インラインを用いたオフトレについて「インラインとスキーの違いを知って練習すると効果がある」とか言うお話を散見します。「違いを知らないと逆効果!」とまで言うお話も見た事があります。

凄い胡散臭い話だなぁ、と思います。

その理由について、いくつかの観点から説明します。

1.インラインの滑りもスキーの滑りも1つではない

こちらの2つの滑りは、1つはドイツ選手から教わった滑り(R)、もう1つはラトビア選手から教わった滑り(S)です。因みに私がいたイタリアのチームでは中間的な滑りを教えて貰いました。ラトビアの選手はアルペンスキーでも活躍しており、オリンピックや世界選手権にも出場し、WCのスラロームの2本目に残った選手もいます。

同じインラインスケートを使って同じセットで出来るだけ速く滑ろうとしていますが、随分違う動きである事が分かると思います。実際のところ、タイムは同じくらいですが、滑ってる感覚は別物です。

このようにインラインスケートの滑り方には色々な滑り方があります。スキーにも色々な滑り方があると思います。

ところでスキーとインラインの違いって、一体どの滑りとどの滑りを比較しての事言ってるのでしょうか??

因みに見た目スキーっぽく滑る事も可能です。これもインラインの滑り方の一種ですね。ただし、インラインの滑りの見た目を寄せようとしてもスキーの感覚には近づかないです。

2.違いを知るには両方を全て知っている事が必要

インラインの滑りには1つのタイプの滑りでも沢山の要素があります。プッシュの感覚だとか、肩のラインだとか、エッジングだとか。インラインの滑りの技術とはそれらの集合体です。スキーも同様でしょう。

ここで、インラインを要素(a,b,c)を持った集合Aだとします。そして、スキーを要素(a,b,d)を持った集合Bだとします。aとかbとかだとピンと来ないと思うので、例えばaはバランスをとる技能でbは上体を安定させる技能でcはウィールを回転させる技能でdはカービングターンの技能だとします。

そうすると、インラインとスキーの違いはcとdだという事が分かります。インラインはカービングしませんし、スキーはウィールで滑走する訳ではありません。

インラインとスキーの違いを把握するという事は、集合Aと集合Bの要素の違いを把握する事になります。集合Aと集合Bの要素の違いを正確に把握するには、集合Aの要素と集合Bの要素をそれぞれ漏れなく全て正確に知っている必要があります。何故なら、集合Aのとある要素が集合Bに存在しない事を証明する為には、集合Bの要素すべてに対して検証をしなければならないからです。逆もしかりです。つまり、インラインとスキーの違いを把握しているという事は、インラインもスキーも全ての要素を知っているという事にになります。

では貴方は集合B、つまりスキーを知っているのですか?と聞きたいです。

私は集合A、つまりインラインアルペンを知っている!とは言えないです。何故なら、この集合はa,b,cの3つなんてお話ではなく、私では把握しきれないほどの多様な要素を含んでいるからです。更に、先述のお話のように滑り方は1つではなく、多様な要素を含んでいる集合そのものが複数パターン存在しているのです。更に更に、世界には私とは別のベクトルかと思いますが、私より沢山の要素を知っている人がいる事を知っているからです。何かに真剣に取り組んだ時、その事を「知っている」というのは結構重い事だと思っています。ましてや、自分の専門ではない競技の事を「知っている」と言うのはちょっとおかしいですよね。その上で「インラインとスキーの違いを知っている!」と言う人は。。。

3.違いではなく共通点

因みに2つの集合の共通点を見つける事は簡単です。こちらは2つの集合の要素全てを知っている必要はありません。共通して存在する要素の存在を確認するだけで大丈夫です。「スキーもインラインもaのバランスが大事」という事はそれぞれのbとかcとかdとかの他の要素を全く知らなくても、ただ両方の運動はそれぞれバランスが大事な運動である事を知っていれば共通点として知る事が出来ます。「スキーとインラインの共通点をいくつか知っている」であれば、胡散臭くないです。

最初の動画の2つ滑りの感覚は別物と言いましたが、勿論共通点もあります。ポジションの取り方やバランスのとり方なんかは同じです。私はR式を覚えてからS式を覚えましたが、S式を覚え始める段階でいきなり初心者に戻ったりはしませんでした。最初からある程度滑れましたし、一緒にレッスンを受けていた中では比較的覚えも早かったと思います。これは元々覚えていた滑りとの共通点を活かせたからだと思います。これはオフトレに限らず、実戦トレーニング以外の全てのトレーニングがそうです。何か過去に練習して体得したものを実戦の動きに活かしたというだけのお話です。

共通点を知っている、もしくは体得しているというオフトレとしての効果はあると思います。これは動きだけでなく言葉を覚えるだけでも意味があります。インラインを教える人としても、スキー経験者は「ターン前半」とか「外向傾」とかの言葉がそのまま通じるので非常にやりやすいです。こういった共通点を知っているという事は役に立つのではないかと思います。

4.何故「違い」が主張されるか。その対策

ではなぜ共通点ではなく「インラインとスキーの違いを知っている!」なんてあからさまに胡散臭い話をしてしまうのでしょうか。

言っている人は本音ではそう思っていないと思います。そこまでレベル低くないはずだと信じたいです。ニュアンス的にあえて形容詞を抜いているのか、分かっている上でセールストークしているのだと思います。

よくあるパターンが「他の人でなく私に教わった方が良いですよ!」というセールストークだと思います。

「私はインラインとスキーの違いを知っている」に加えて「2つの違いを知らないと下手になる」まで強い事言っとけば、お客さんの不安をあおり、囲い込みやすくなります。「知っている私に教わらないと下手になる」と。

また、そういったブランディングをする事で、お客さんも「自分は2つの違いを知っている特別な存在なんだ!」と優越感を得る事が出来ます。

逆に、指導者が「私、その競技の事よくわかんないんですよね」なんて正直トークするのは確かにマイナスだと思います。「2つの違いなんて知っててもなんの役にも立たないし、そもそも違いを知るなんてそんな事不可能だよね」という話もモチベーションを下げるだけかと思います。そこは難しい所ですね。

ただ、それでも、それってセールストークとしても良くない、と思います。確かにその人はお客さんを囲い込めると思います。しかし、その人と合わなかった時や別の人に教わっていてその事を耳にした時にインラインを続けようと思うでしょうか?自分は下手になる練習をしているのかなぁ、と思ってしまいます。インラインスケートをやめるという選択をする要素になりえますよね。

また、「私は知っている!」という優越感は本人は気持ちいいかもしれませんが、周りは面白くないんですよね。特に、その優越感を口にし、他の人に「知らないといけない!」とか「そんな事も知らないの?」とかやり始めると、まわりは滅茶苦茶面白くないと思います。私がかつて日本で所属していた方のチームがそれで、今思うと本当に恥ずかしい事をしていたな、と申し訳なく思っています。例え国際大会で結果を出そうと、業界にとっても、社会の中でもスポーツの価値としても本当に害悪だったな、と反省されます。

スポーツの価値の一つに社会のモデルが試せる事があると思いますが、こういった「センセーショナルな言葉で他人を操ろうとするモデル」が是とされるというのは社会にとってマイナスで、ひいてはスポーツの価値を下げる事だと思います。

「スキーとインラインとスキーの違いを知らないでオフトレとして活用すると下手になる!」みたいなセンセーショナルな強い言葉は大抵セールストークのウソなので気を付けたいですね。

という上記のようなお話を、「そうなんだ」と納得されたり、「まぁそりゃそうだよね」と共感されたりした方は注意が必要かと思います。「センセーショナルな強い言葉は大抵セールストークのウソ」という、これこそが、センセーショナルな強い言葉で騙す一例です。特に後者の「そりゃそうだよね」と感じた方は、知りもしない事や根拠のない話を知ったつもりになって、知っている事に優越感、知らない事に劣等感を持ったりする傾向がありそうです。

センセーショナルな言葉である事とウソにはなんの関係もありません。それだとセンセーショナルな科学の発見とかはだいたいウソって事になっちゃいます。

物事を判断する際に、そういった「センセーショナルかどうか?」というような本質ではない理由で判断せずに、ちゃんと具体的なお話の中身を自分の頭で考えて判断する事が大事かと思います。私がここまで話してきた内容も言葉遊び的なところがあり、全て事実かどうかは怪しいですよね。これは事実かも、これは疑問。自分で検証してみよう。それくらいの気持ちでいて貰えた方が良いと思います。

5.まとめ

効果がどうとかは置いておいて「インラインとスキーの違いを知っている」はウソであると言えると思います。既に無意識に使っちゃっているとしたら「共通点を知っていると役に立つ」くらいに言い換えた方が良いかと思います。共通点を見つけるのは可能な事ですし、オフトレとしても役に立つと思うので、そういう視点で考えると良いのではないかと思います。これらはインラインに限らずのお話ですね。

Atsushi has written 134 articles

Japanese player of Inline Alpine
PH.D. in Sports science
IT trainer

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