クリーンエッジ

概要

インラインアルペンの滑走方法にも様々なものがあり、スキーの滑り方をベースにしたものや、プッシュの地面反力を有効に使う走りのような滑り方も存在します。

その多様な滑り方の中でも、全てのトップ選手の滑り方において共通する最も重要な技術のひとつが「クリーンエッジ」であると考えます。

クリーンエッジは滑走スピードを上げ、ヨーロッパなどでの高速なコースで滑走する上で安定性も高めてくれる技術になります。

ここでは「クリーンエッジ」について説明していきます。

1.クリーンエッジとは

クリーンエッジとはスキーで使われる用語で、海外のスキーのカービングターンのレッスンなどで良く使われます。

スキー板に対してひねりや前後への荷重を加えず、センターに乗り続けて荷重し、身体座標系で真横に倒れ込む事でターンしていく技術です。その結果、ほとんどズレを伴わないカービングターンを行う事が出来ます。

実戦的な厳しいアルペンスキーのセットでは、上体をフォールライン方向に向ける事で多少のズレも活用しながら板を下に向けていく事が多いです。ただ、減速の少ないカービングターンの利点から、フリー滑走などでターン前半は上体をターン外側方向に向けて板に正対していくクリーンエッジのトレーニングというのも重要であると考えられます。実際、多くのトップ選手がトレーニングとして実施しているところが見られます。

2.インラインアルペンにおけるクリーンエッジのスキーのクリーンエッジとの違い

このクリーンエッジの技術の感覚ですが、自分で身体を動かす感覚(FF感覚)はスキーもインラインも近しいものがあると思います。特に、ターン前半にひねりや前後の荷重を加えずにエッジを立て始める感覚は、非常に近いのではないかと考えます。

ただし、インラインスケートにはカービング機構がない為、結果として起こる現象が異なってきます。その為、身体が受ける感覚(FB感覚)も異なり、その後の動作も異なってくる為、全く同じ動作ではないと考えます。

スキーではターン前半に正対して身体を傾けた結果、カービング機構によってスキー板は向きを変え始め弧を描きます。スキー板にかける圧を一定にした場合回転半径の大きい弧を描き、また、前のターンの反動や荷重抜重などを使って圧に強弱をつけるとより回転半径の小さい弧を描く事が出来ます。また弧を描く事で遠心力が発生します。遠心力によって足裏や下肢にはより負荷がかかり始めます。

一方、インラインではターン前半に正対して身体を傾けるだけでは、インラインスケートの方向は変わりません。よって直線的に進んでいきます。当然、遠心力も発生しません。スキーではこの遠心力を「踏む」「圧をかける」という行為だと感じている人が少なからずおり、この動作だとインラインでは踏む事が出来ていないと感じられます。(個人的には「踏む」や「圧をかける」という行為は前のターンの反動や荷重抜重などを使うFF感覚の事だと思っており、前述のように結果的に発生した遠心力によるFB感覚ではないと思っています。FB感覚なら「圧をかける」ではなく「圧がかかる」かと思います。)

スキーでは良く行われるトレーニングですが、インラインにおいては、補助ポールなどを置き丸いターン弧を描かせようとすると、直線的なラインになるクリーンエッジでは滑走できなくなってしまいます。また、自ら「圧がかかる」事を求めると遠心力を得る為に丸い弧を描こうとし、ズレを発生させてしまいがちです。結果的にこちらもクリーンエッジではなくなります。

クリーンエッジのインラインにもスキーにも共通する点は、ズレによる減速が比較的発生しない事で、いずれもより高速のターン滑走を可能にするものであると考えます。減速が発生しない事はタイムを競う競技であるインラインアルペンにおいては当然非常に重要な技術であると言えます。

3.インラインアルペンにおけるクリーンエッジの利点

このようにタイムを稼ぐために重要な技術であるクリーンエッジですが、インラインアルペンにおいては更に重要である追加の理由もあります。インラインアルペンでは、斜面変化や大きく横に振っているセットなどが存在するアルペンスキーに比べ、直線的なセットが多い(近年のルールでは急に大きく横に振ってはいけないと定まっています)です。また、非常に小さい回転半径で曲がる事ができるインラインスケートにおいてはズレを使わなければならない局面は少ないです。このため、雨天などでない限り、基本的にほとんどの場合においてクリーンエッジで滑った方が速いです。

更に、スキーに比べてグリップが落ちるインラインスケートではグリップの確保は非常に重要な事項です。クリーンエッジはグリップの確保にも貢献します。逆に、クリーンエッジではなく、スケートを捻ったり、前後荷重バランスを変えたりしてターンすると、全てのウィールのグリップを発揮できなくなります。結果、ズレてしまったり一部のウィールだけが極端にグリップして叩かれたりしてしまいます。スケートに余計な力を加えずにグリップさせ、足場として身体重心を次のターン方向に運んでいく為にもクリーンエッジは重要な技術になります。

4.クリーンエッジの習得方法

クリーンエッジの習得方法は、バリエーショントレーニングなどでインラインに上体の向きを正対させ身体重心を真横に移動させる事を心掛ける方法と、とにかくゲートからゲートへの直線的な滑走を心掛ける方法が考えられます。前者は身体動作ベースで積み上げて考える方法であり、後者は結果のイメージから作り上げる方法になります。選手の年齢や性格などを考慮すると良いと思います。年齢が低い場合は特に後者がお勧めです。前者で行う場合は、上体の正対は思っている以上に外向きなので、ターン前半の上体の外向(内肩を前に出すなど)を意識すると良い場合が多いです。インラインスケートの基礎練習として行うAフレームターンやコーンのおいてある方に上体を向ける0の字や8の字の練習とは異なり、スピードスケートのコーナーのクロスオーバーの上体の向きに近いです。

まとめ

以上、会得する事で速い滑走とグリップの高い安定感のある滑走を可能にするクリーンエッジはインラインアルペンにおいて非常に有効な技術であると考えます。また、スキーのトレーニングとしてもFB感覚は違うもののカービングの技術会得に非常に近いFF感覚を持つ動作になりますので、一つのバリエーショントレーニングとして試してみると良いかもしれません。

Atsushi has written 134 articles

Japanese player of Inline Alpine
PH.D. in Sports science
IT trainer

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